◆立地条件生かし調査や実験

PK2013083002100035_size0 世界文化遺産に登録された富士山。その頂には登山客だけでなく、標高三、七七六メートルの立地条件を生かし、七、八月の二カ月間、さまざまな調査や実験にいそしむ研究者の姿がある。国内最高峰の地に立つ富士山測候所を舞台に繰り広げられる研究の今を見た。

 八月下旬の早朝。測候所の中に足を踏み入れると、登山客でにぎやかな外とは打って変わって落ち着いた時間が流れていた。精密な機器が発する熱で、室内の温度は二六〜二七度。外より二〇度以上暖かい。寝室には簡易ベッドが並び、最先端の研究室というより、極地の合宿所という雰囲気だ。

PK2013083002100034_size0 内部を案内してくれたのは、NPO法人「富士山測候所を活用する会」理事長の畠山史郎・東京農工大教授(大気科学)。研究対象は大気中の微粒子。パイプで外気を取り込み、毎日午前六時と午後六時の二回、フィルターを取り換えて観測機器で微粒子を調べている。今春話題になったPM2・5のように、東アジア諸国から西風に乗って流れてくる汚染物質のデータ収集が目的だ。

 気圧の低い地点でも機能するポンプを用意するなど、研究には高地特有の準備が欠かせない。「何回登っても慣れることはない」という高山病対策も課題だ。血中酸素濃度を測って体調に気を付けながら研究に取り組むが、苦労が大きい分その成果は貴重だ。

 同会が測候所を気象庁から借用し山頂で研究を始めたのは二〇〇七年。一三年一月時点で、大気科学や宇宙線科学、高所医学などの分野で計三十三本の論文を発表。国際的な学会誌にも掲載され、国内の学会誌でも紹介された。今夏は大河内博早稲田大教授ら大学や民間企業など十五グループの研究者らが食品科学や高所医学、放射線、教育と幅広い研究を行った。

PK2013083002100033_size0 取材を終えて下山準備を始めた正午前。奥の部屋がにわかに騒がしくなった。鹿児島・桜島の噴火の影響を受け、富士山頂の大気中の二酸化硫黄の濃度が上昇したようだ。畠山教授は「二酸化硫黄だけでなく、他の物質にも変化があるかもしれない。他の研究にも生かせる発見です」と声を弾ませた。

 NPO理事の土器屋由紀子・江戸川大名誉教授(農学)によると、一三年度は三井物産など大企業が提供する環境基金から約一千万円の助成を受けた。だが、NPOの年間運営費は約二千五百万円。山頂での生活を支える登山家を雇う人件費や研究資機材の運搬費、送電線の保全費は削れない。今夏の研究期間は例年より一週間ほど短くせざるを得なかった。

 財政状況は厳しいが測候所の有効活用の夢は広がる。ネパール、台湾、ハワイの山岳研究施設との共同調査や、通年観測による越境大気汚染の解明は、世界における新たな測候所の役割を生む。頂に立つ登山客が毎朝入れ替わる中、研究者たちは測候所の中で日夜、地道に研究を続けている。
(中日新聞)