中央アルプス檜尾岳付近で29日発生した韓国人グループの遭難事故は、強い風雨に見舞われ、通常7〜8時間かかる長いコースを行動する中で起きた。30日の県警の調べによると、グループの20人は全員が旅行会社の募集で集まった客で、見知らぬ同士が多く、登山を統率する「リーダー」もいなかったことが判明。日本人ガイドもいなかった。山岳関係者からは「それぞれの判断で行動したことにより遭難の危険性が高まったのではないか」との見方が出ている。

 県警によると、グループの中には登山用雨具を持つなど装備がしっかりとしたメンバーもいたが、低体温症で死亡したとみられる3人が身に付けていたのはいずれも薄手の雨具だった。

 中ア地区山岳遭難防止対策協会員の登山ガイド堺沢清人さん(77)=駒ケ根市赤穂=は、韓国人グループが選択した空木岳経由で宝剣岳に向かうコースは高低差が大きく、ツアー登山の一般的なコースではないと指摘。日本のツアー会社のほとんどが、駒ケ岳ロープウェイを使った宝剣岳から空木岳のコースを選ぶという。

 NPO法人信州まつもと山岳ガイド協会やまたみ(松本市)の石塚聡実事務局長(48)によると、韓国内の最高峰は2千メートル弱で「3千メートル級の山を縦走した経験がなく、日本の山に訪れている人が多い」と指摘。「互いの体力差も知らない同士のパーティーがばらばらに行動したとすれば極めて危険だ」とする。

 今回のルートは吹きさらしの稜線(りょうせん)上を長く歩くため、風雨にさらされれば夏山でも低体温症に陥る危険性がある。信州大大学院医学系研究科の能勢博教授(スポーツ医科学)によると、強い風雨で体の中心部の体温が下がると、意識低下などが起きる。体の動きが鈍くなり一層体温低下が進み、呼吸や循環機能に異変が生じるという。同教授は「汗や雨で体がぬれると一気に体の熱が奪われるので、夏山でも低体温症になる危険性はある」としている。
(信濃毎日新聞)