「タイムマシン」も可能? 光より早いニュートリノ

DSC_1264 名古屋大などの国際研究グループが23日発表した、ニュートリノが光よりも速いという実験結果。 この実験結果が得られたのは、スイスにある欧州合同原子核研究機関(CERN)の「OPERA実験」。 ニュートリノ(ミュー型)を加速器という装置で打ち出し、約730キロ・メートル離れたイタリアのグランサッソー地下研究所へ地中を通して飛ばした。
 光はこの距離を0・0024秒で飛ぶが、今回の観測によって、ニュートリノは光より1億分の6秒早く到達していることが分かった。これは、光の速度より0・0025%だけ速く飛んだことを示している。

 ニュートリノの飛行速度を巡っては、2007年に米国の研究チームが論文を発表しており、この時は誤差と区別がつかなかったため、「光速と差がない」と結論づけていた。 今回は原子時計を備えた全地球測位システム(GPS)と光学測量を組み合わせ、3年間かけて約1万5000個分の飛行速度を精緻に測定し、その結果、誤差を考慮しても、光速を超えていることが判明した。

 アインシュタインの相対性理論では、ものが速く動くほど時間の進み方は遅くなり、光速では進み方はゼロになる。さらに光速を超えると、時間の進み方は逆になり、時間を遡ってしまう。 このような現象はあり得ないとして、アインシュタインは「光速を超えるものはない」とした。 しかし、それが破られたことになる。ニュートリノから見ると、到着したイタリアの時刻は、自分が飛び出したスイスの時刻より前になる。

 相対性理論と矛盾しないように「超光速」を説明する考えもある。 「異次元」の存在だ。私たちの宇宙は、前後、左右、上下の3次元に時間を加えた4次元の世界だ。 もし、5次元や6次元といった、別の次元があり、そこを近道して粒子が通れば、見かけ上、光よりも早く着いたように見えてもおかしくない。 だが、「仮想の粒子ならともかく、ニュートリノという実際の粒子にあてはめるのは難しい」と、佐藤勝彦・自然科学研究機構長はこの考えに否定的だ。

 ニュートリノの質量を計算に便宜的に使われる「虚数」という想像上の数字にしてしまう方法もある。だが、ニュートリノの質量を虚数とすると、宇宙全体のエネルギーが変わり、宇宙がどのように生まれ将来どのようになっていくのか計算するのにも影響を与える。

 いずれにしても、光よりも速い物体が存在することになれば、アインシュタインの相対性理論で実現不可能とされた“タイムマシン”も可能になるかもしれない。 これまでの物理学の常識を超えた結果に、専門家からは驚きとともに、徹底した検証が必要としている。


理論構築が必要・・・
 東大の村山斉・数物連携宇宙研究機構長は、「現代の理論物理がよって立つアインシュタインの理論を覆す大変な結果だ。本当ならタイムマシンも可能になる」と驚きを隠さない。
 アインシュタインの特殊相対性理論によると、質量のある物体の速度が光の速度に近づくと、その物体の時間の進み方は遅くなり、光速に達すると時間は止まってしまう。 光速で動く物体が時間が止まった状態だとすると、それよりも速いニュートリノは時間をさかのぼっているのかもしれない。 すると、過去へのタイムトラベルも現実味を帯び、時間の概念すら変更を余儀なくされる可能性もある。
 それだけに、村山氏は「結果が正しいかどうか、別の検証実験が不可欠だ。 実験は遠く離れた2地点の間でニュートリノを飛ばし、所要時間を計るというシンプルなアイデア。 正確さを確保するには双方の時計をきちんと合わせる必要があるが、これはそれほど簡単ではない」と語る。

新たな研究への一歩に・・・
 スーパーカミオカンデ実験を率いる東大の鈴木洋一郎教授も「別の機関による検証実験で、結果の正しさを確かめることが大事だ」と慎重な姿勢だ。 鈴木氏は、昭和62年に小柴昌俊氏がニュートリノを検出した実験で、超新星爆発で出た光とニュートリノがほぼ同時に観測されたことを指摘。  「両者の速度に今回のような違いがあるとすると、ニュートリノは光よりも1年は早く地球に到達していなければおかしいことになる」と語る。
 実験に参加した名古屋大の小松雅宏准教授は「実験に間違いがないかと検証を繰り返したが、否定できない結果になった。 公表することで他の研究者による検証や追試が進み、物理学の新たな一歩につながれば」と話している。


と言うことは・・・
 宇宙戦艦ヤマトのワープ(超光速航法)も、理論的に存在できるのかも知れない。




ニュートリノ
 物質の最小単位である素粒子の一種。1930年に存在が予言され、56年に確認された。あらゆる物質をすり抜けてしまうため観測が難しく、解明のための研究が進んでいる。 電気的に中性で、物質を透過する。「電子型」「ミュー型」「タウ型」の3種類があり、飛行中にそれぞれ別の種類に変化するニュートリノ振動という現象を起こす。以前は質量がゼロと考えられていたが、故・戸塚洋二東京大特別栄誉教授らによる観測で、質量があることが明らかになった。

相対性理論
 アインシュタインが、1905年に発表した特殊相対性理論では「物体は光速を超えることはできない」「光速に近づいていくと時間の流れが遅くなり、光速になると時間が止まる」「光速に近づいていくとその空間(長さ)が縮み、光速になると、空間が0になる」などの結論が導かれる。

欧州合同原子核研究機関(CERN)
 スイス・ジュネーブの郊外にあり、宇宙誕生の瞬間を人工的に作り出すことを通じて、物質と出合うと消滅する「反物質」の観測、物質の重さや真空などの原理的解明を目指す国際的な研究機関。 世界最大の加速器を備える。